管理費等の滞納はマンションにとって大きな問題です。管理費等の「等」は修繕積立金や専用使用権料(専用庭やルーフバルコニー使用料)、駐車場使用料などを意味します。多くのマンションは管理費等の引落しを管理規約で義務付けていると思われます。一括で引落し、その後、分別管理(収納口座、保管口座等)します。
上記のように管理費等は一括引落であるため、口座が残高不足となると、すべての料金が落ちません。結局、管理費・積立金・専用使用料・駐車場使用料等がすべて滞納となります。
さて、今回、確認しておきたいのは、管理費等の時効についてです。
管理費等の消滅時効をご存知ですか。もちろん、そんなことは区分所有法や管理規約に明記されているわけではありません。それは判例を見ます。
以前(17年ほど前)は、管理費の消滅時効は5年とする説と10年とする説がありました。どちらかというと業界(マンション管理業界)では10年説のほうが優勢だった気がします。つまりそれは、管理費は、一般的な借金と同じような感覚で、借金の時効が10年だったからです。しかし平成16年4月23日に最高裁で管理費の時効は5年とする判決が出ました。以降、マンション管理業界では、管理費の時効は5年とするのが通説です。さて、まずここで注意していただきたいのは、今回のブログで最初は管理費等と言っていたのが、途中から管理費と「等」をとりました。それはなぜか。じつは5年時効という判決は、あくまで管理費についてです。つまり駐車場料金やバイク置場使用料などは5年ではないという判断だと考えられます。
前述の判決の内容は以下のようなものです。「管理費の額は総会決議され、月ごとに支払われるもの。このような債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法169条の定期給付債権あたる。その額が総会の決議により増減することがあっても定期給付債権である。したがって、各月に発生する管理費は5年の短期消滅時効を定める民法169条の適用がある。」というもの。簡単に言うと、1年以内の金銭その他の物の給付を目的とする債権ということですが、これでも説明複雑ですね。もっと簡単にいうと「4月の家賃」とか。毎月、同額で支払いますよね。
まあ言葉の説明は置いておいて、管理組合としては、管理費(修繕積立金も同様)は、時効が5年と考えて、早期に時効を中断する法的手続きをしなければなりません。
時効の中断とは、5年間滞納を放置した場合、管理組合は相手方に請求できなくなるので、5年以内に何らかの法的な手続きをとり、管理組合は管理費の滞納に対して処置をすれば、5年の時効が途切れるという意味です。
時効を中断する方法は3つ。
1・請求すること(訴訟、支払督促、調停等)
2・差押、仮差押、仮処分
3・承認
まず、管理組合が最も簡単に行えるのが3です。これは滞納者が承認書に滞納している合計金額、支払い時期等の内訳を明記して、それを認めること(署名・押印)です。この承認書は、のちに裁判になったときの最も有利な証拠ですから、必ず保管しておいてください。
3が困難な場合とか、3が提出されても支払いが滞った場合は1や2となります。もちろん最初から1や2でもいいのですが、ここで注意を一つ。よく、内容証明郵便を相手方に送付しますが、これは時効の中断になりません。もちろん相手方受け取っても、6か月間の時効の停止となるだけで、時効の中断にはなりません。相手方に対する意思表示や、相手方を交渉にのらせるきっかけとはなると思いますが、時効の中断にならないことを知っておきましょう。
ここで一つ、経験談を。ある管理費等の滞納者に対して裁判(競売決議)をした時に、上記の承諾書が有利な証拠となりましたが、当初、相手方はその承諾書を自分たちが書いたと認めませんでした。間違いなく相手方が書いたものです。だって、私は目の前で見てましたから。すると裁判官は、こう言いました。「あなたの会社(オーナーは法人)の印鑑が押してあるけど、じゃあこれはあなたの会社の印鑑じゃないということ?」すると相手方は「似た印鑑です」と回答。裁判官「似てるの?どこが似てるの?どこが本物と違うの?」。相手方「そっくりすぎる印鑑です。本物だと間違います。」裁判官「要するに本物ということ?」結局、堂々巡りで、話はまとまらず、でも競売は認められました。私の経験上、裁判で自分の署名押印した承諾書を認めなかった滞納者は、この人だけです。
それと3の承認について補足です。全額支払えず、滞納額の一部を支払った場合、この場合も時効が中断すると考えられます。つまり、滞納を認めて払っているからです。100万円の滞納があり30万円だけを支払った。この場合、残額70万円にも時効の中断は及びます。ただし、それが滞納額の1部であり、残額が70万円あるという承諾書を受領しておくべきだと考えます。