専有部工事の許可申請がある区分所有者から管理会社に提出された。そのことについて、私に相談があった。たまにある相談事項だが、今回は内容が少し違っていた。「管理規約で専有部の工事申請に対して許可を与えるのが理事長となっている。」という相談だ。規約でそうなっているのなら、理事長判断でよいと思うのだが、相談事項は、「理事長が一人で判断するのに躊躇している。」というものだ。
たしかにマンション標準管理規約では、第17条1項に「区分所有者は、その専有部分について、修繕、模様替えと又は建物に定着する物件の取付け若しくは取り替えであって共用部分又は他の専有部分に影響を与えるおそれのあるものを行おうとするときは、あらかじめ、理事長にその旨を申請し、書面によって承認を受けなければならない」となっている。この条文だけを読むと、理事長が一人で判断しなければならないように見えるが、第17条3項に「理事長は、第1項の規定による申請について、理事会の決議により、その承認又は不承認を決定しなければならない。」となっているため、じつは一人の考えで判断するわけではないのだ。
専有部の工事申請は、頻繁に提出される。都度、理事長名にて承認・不承認の回答を書面又はメールなどで回答しなければならないのだが、そのたびに理事会を開催している時間がない、と言った悩みもよく聞く。理事会を常に開催することのないマンションでは、申請書が提出されるたびに検討することも大変だ。私も管理会社在籍時代、そしてコンサルとなった今でも、「承認・不承認」の相談を受ける。
しかし、多くの場合、申請書を見てみると、部屋のクロスの貼替やトイレ便器の交換、給湯器の交換などが多い。実は、これらは申請はいらない。これらは共用部や他の専有部に影響を与えることはないからだ。
それであれば、どのような工事を申請しなければならないのか。じつは、標準マンション管理規約には、条文以外にも【コメント】という欄があり、第17条の例でいうと、第17条コメント②に「具体例としては、床のフローリング、ユニットバスの設置、主要構造部に直接取り付けるエアコンの設置、配管(配線)の枝管(枝線)の取り付け・取替え、間取りの変更等がある。」と明記されている。
つまりフローリングのように下階への音の影響が心配されるもの、梁や柱といった主要構造物などに影響を与えるものなどが共用部への影響が心配されるものである。
それでは、上記以外の工事は一切申請をしなくてもよいのか。そうではないと思う。可能であれば、どのような工事も、一応知らせてほしいのが本音。なぜなら、クロスの貼り替えなどで内装業者がマンションに立ち入るときは、よくエレベータや廊下などに汚れ防止のために養生をかけたりする。養生は共用部にかけるので、やはり理事長の承認が必要だ。その程度のことで、なにも大々的に理事会を開催する必要もなかろう。また専有部の工事といっても異音が発生するような工事もままある。クロスの貼り替えでも、ボードまで取り替えるケースもある。そのような場合、異音が発生するケースもある。それならば、内装工事のお知らせを掲示板に貼っておけば、居住者は理解できる。
もともとマンションに関する公のルールはそんなに多くない。区分所有法という法律はマンションの管理組合活動について規定した法律だが、じつはこれには理事会の規定はない。区分所有法の第25条には「区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、管理者を選任し、あんたは解任することができる。」と書かれているだけで、理事長、理事会というワードは出てこない。そこで規約で別段の定めをして、理事長y、理事会を設置して、詳細なことを決めるわけだ。
つまり、専有部の工事の申請も法律ではなく、そのマンションの管理規約でルール付けをするわけなので、この意味は、そのマンションにて自分たちのコミュニケーション上のルールを作っていることになる。
マンションの居住者には、マンション内に第三者の業者が出入りするケースは、工事内容を含め前もって管理組合に知らせてもらうことを前提にしていれば、それほど問題は発生しないと思う。
専有部にやってきた第三者がマンション内の共用部を傷つけたというケースは頻繁なのである。前もって報告してもらえば、問題解決は早い。
私のお世話になっているマンションでは、つい最近(数か月前)、エレベータの壁に大きな傷たついた。防犯カメラを閲覧したところ、ある専有部に荷物を運んできた内装業者がつけた傷だった。同工事は申請がなかったため、防犯カメラを閲覧して、加害者を特定しなければならなかった。特定までに少し時間がかかったが、結局は、内装工事業者に弁償してもらい、マンション専属の業者に修理してもらった。
東京リーガルマインド