国交省は、毎年マンション管理会社に対して立ち入り検査を行っている。私も管理会社に在職していた時代に経験したことがある。私は、検査員と直接に対応したことはないが、どの管理会社も総務課にあたる部署、もしくはマンション事業にあたる部署が対応にあたっていると思う。私が経験があると記したのは、国交省の立ち入り検査があると発表された数日前に、部下たちと重要事項説明書の原本コピーや説明受領書、委託契約書などの整備状況を再チェックしたことが数度ある。
国交省の管理会社への立ち入り検査の結果は、公になっている。昨年度(令和2年)は10月から数か月かけて実施されたようで、おもにマンション管理適正化法違反があった場合に、指導を受けることが多い。また管理会社に対して行った指導内容や違反行為。指導率などを発表している。
やはり、もっとも指導される事項は、重要事項説明に関する指導だ。これは、おもに委託契約の更新前に、同一更新であれば、すくなくとも理事長に対して、同一更新でない場合は、全組合員に対して、重要事項説明を実施しなければならないことに対する違反だ。
重要事項説明を実施した場合、原本は理事長に公布するため、管理会社にはコピーが残る。説明と同時に理事長より、説明を受けたことを証する署名捺印を受領することとなる。これが管理会社に存在していないと、重要事項説明を実施していないと判断される。
また、管理会社の委託契約は、一般的に総会の決議(普通決議)を経ることとなるが、現契約の期間が終了する前に、次期委託契約書を交付して、署名捺印を交わす。なぜか、この契約書が存在しないことがある。
管理委託契約に基づけば、次期の契約更新を管理会社が希望する場合は、現契約期間が終了する3カ月前に、更新の申し入れを文書にて行うのが一般的。この申し入れをせず、いきなり重要事項説明を実施することも多い。ついつい更新申し入れを忘れてしまう。
国交省が発表する管理会社に対する是正事項は、①管理業務主任者の設置(専任業務主任者の人数違反)②重要事項説明の未実施③契約書面の未交付④財産分別管理の未実施⑤管理事務報告の未実施(毎月の会計報告等の未実施)などがある。
上記のような違反は、なぜ起こるのか。マンション管理会社のフロントであれば、総会前に重要事項説明の実施が必要なことは全員知っている。管理業務主任の有資格者であれば、100%の者が知っていることだ。
また委託契約更新の申し入れ(契約期間終了の3カ月前)も、たまに忘れてしまうこともあるかも知れないが、知らないことはない。
たぶん、上記のような違反が起こるのは、事務方とフロントの間の連絡がうまくとれていなかったり、会社そのもののISOや法的なチェック体制がうまくとれていないからだ。マンション管理業協会は、「現場のフロントにすべての仕事を任せきってしまうような社内体制にならないよう注意を促し、それを顧客(管理組合)から指摘されることは、プロの管理会社として恥ずべきことである」という意味のことを言っている。
管理会社のフロント担当者の能力というものもある。しかし、上記のようなミスは、そのマンションの1年間の動きや契約状態をつねに把握している事務方とフロント担当者とのコミュニケ―ションがとれていないことが多い。
もちろん、法務的なチェック機構が社内にないような管理会社は論外である。
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