長期修繕計画書は一般的には、マンションの総会にて承認されている。
あるマンションの購入を考えている一般客は、購入前に不動産屋(仲介業者)を通じて、そのマンションの長期修繕計画書を手に入れることになる。これは不動産会社が管理会社に若干の費用を払い、重要事項調査依頼を申請し、手に入れることになる。もちろん長期修繕計画書がないマンションもあるので、その場合は、長期修繕計画書がない、という項目にチェックを入れることになる。
新規購入者としては、長期的な計画書の存在は、一定の安心感を与える。つまり、購入予定のマンションは、管理組合がしっかりしており、長期的な躯体の維持計画があるのだと判断する。
実際には、長期修繕計画書にも簡易的なものから、非常に詳細なものまである。詳細であればあるほど、しっかりしているという印象を与えるが、詳細すぎて、本当にこのように修繕計画が進捗するのかと、逆に不安がる人もいるが、詳細な修繕計画書は、たぶんプロが作成しており、それほど心配はいらないと思われる。
さて、来年(令和4年)4月から始まる、管理計画認定制度や管理評価制度といった、マンションの管理組合の運営をランク付けするような制度では、この長期修繕計画書の存在の有無は、ひとつの基準項目となっている。まずは存在していることが大事である。長期修繕計画案がないと、それだけで配点がマイナスとなり、認定ラインに満たない可能性もある。
ここで注意が必要なことは、長期修繕計画書は、あくまで計画案であって、その通りにマンションの躯体維持計画が進捗するというものではない。例えば、大規模修繕計画を築24年で実施する計画をしているとしても、その数年前(築22年や23年目)から実際の調査業務が始まり、本当に大規模修繕工事が必要かどうかの再検討がはじまり、必要であれば、詳細な見積書や工事概要などが作成され、総会決議を経ることとなる。つまり長期修繕計画書はあくまで計画案であって、その通りに実施が進捗するということを保証するものではない。
それでは、なぜ長期修繕計画案を作成するのか。大きな目的は、長期修繕計画案は資金計画を作成するために資する重要な資料とするということである。計画を実行するための資金力(積立金残額)がなければ、計画は絵に描いた餅となる。
新しい長期修繕計画の作成ガイドラインが、今年の9月に発表されたが、このガイドラインによると、計画案はむこう30年を作成すること。同30年の期間に2回の大規模修繕工事の実施予定をいれること。修繕計画は5年ごとに見直すことが推奨されている。この見直し期間は、じつは管理計画認定制度、長期修繕計画案ガイドライン、マンション標準管理規約の3つとも見直し期間は違う。つまり見直す時期は、じつはマンションにおいて、それぞれが判断することとなる。
この長期修繕計画書は、総会にて承認されることによって、マンションの正式な計画書として認められる。
先日、あるマンションの方から長期修繕計画案について相談を受けた。それは総会資料として配布されたものらしく、承認事項となっているのだが、数年後に赤字となり、約10年後以降は工事未定となっており、いずれは数千万円の赤字となる。相談者は「これでは承認できないと考えているが、赤字の長期修繕計画書を承認する意味があるのかどうか」という相談だ。
同計画書案を見せてもらったが、国交省の標準的なガイドラインにはそっていない。資金計画は、現状のまま均等で推移し、どんどん赤字となっている。私は、相談者が承認できないという意味がよく分かった。
つまり長期修繕計画案というのは、実行できる可能性がないと計画書として意味がないと思う。明らかな資金不足が見えているのであれば、なんらかの対策を打たなければならない。工事項目は出ているのだが、資金不足であれば、実際にはその工事は実施できないこととなる。それが明白であれば、それは計画とはいえない。
もし長期修繕計画案を総会決議にて承認するのであれば、資金計画も同時に説明すべきで、対策を講じるべきだと思う。「当マンションは、どんどん資金が足りなくなっていきます。以上です。」ということであれば、計画書とはいえない。
来年からの管理計画認定制度にむけて、動き出しているマンション管理組合もあると聞き、認定要件にあった修繕計画書を作成しだしたマンションもあると思われる。長期修繕計画書をマンションで作成することは、今後の管理組合の義務のようなものだと思うが、資金不足だけをさらけ出し、対策を講じなければ、総会に上程する意味はないと思うのだが、いかがだろうか。
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