戦後、日本にマンションと呼ばれる建物が多く建てられ、その多くが築40年を経過してきた。また日本という国の経済情勢や人口構成にも大きな変化があり、今、マンション行政においては、築40年以上を経過したマンションの「二つの老い(建物と居住者)」が大きな問題としてクローズアップされたきた。
象徴的なマンションとして滋賀県野洲市の「美和コーポ」というマンション。1972年築の9世帯のマンションだが、管理組合が機能せず、10年前から住人がゼロ。外壁が崩落し、室内の家具さえ悲惨するような状態。野洲市が行政代執行にて昨年7月18日に解体したが、その費用は1億1800万円。9世帯から回収しなければならないが、回収できたのは3世帯のみ。1世帯あたり1300万円。所有者の1人は法人で、現状はもう存在せず、代表者は行方不明だ。つまり費用回収の見込みはない。
上記のマンションは象徴的な事件で、いろんな雑誌や本などで紹介された。岩波新書のようなお堅い本でも、マンションの悲惨な行く末として紹介されている。
私が所属する東京都マンション管理士会八王子支部では、行政と協力して、八王子市内の機能不全マンションをあぶりだし、管理士が現地に赴き、指導を行っている。八王子市では、今後、新たな公的マンションを建築する予定はなく、むしろ空家問題や機能不全マンションを立て直す施策を模索中だ。
上記のような問題を受けて、国は昨年6月、マンション管理適正化法を改正するとともに、マンション建て替え円滑化法も一部改正した。同法を改正することで、マンションの建て替え要件のハードルを下げている。
具体的には、外壁が剥落しているような危険なマンションや火災に対する安全性が不足しているマンション、バリアフリー化されていないマンションも容積率緩和の特例対象となった。とくに外壁崩落の危険性のあるマンションと火災に対する安全性の不足しているマンションでは、区分所有者の5分の4以上の賛成で建物と敷地を売却できる「マンション敷地売却事業」の対象とすることができるようになった。
しかし上記のような緩和措置が、どれほど有効で建て替えが実現していくかわは未知数である。もともと2002年にマンション建て替え法が成立してから、同法により建て替えは日本中で100件に満たない。要するに建て替えるメリットは、オーナーが得にならなければならない。容積率が緩和された分の床面積を売却して建て替え費用(事業費用)に充当するが、本当に売れるのかということが問題。またその前に建て替え組合を設立するが、デベなどが参加するかどうかも分からない。つまり売却できるような立地にあるか等も大きな問題である。
マンション管理士会、管理会社、管理組合など、つねに関係者と会っていても、将来的な建て替えの話になっても、多くの人が「無理だよね~」という感想。都心の一等地なら別だけど、私の顧客にそのような立地の方は、いないので。