管理組合において、各共用部の修繕・補修を依頼されたり、業者さんの紹介を頼まれたりすることが多いのですが、今回は、この見積書の取得について、思うところを書いてみたい。
仕事柄、共用部の見積取得を依頼されることが多いのですが、専有部の内装等の工事をすることもあります。
また管理組合の保険がらみの工事だと、保険会社や鑑定人の方たちの質問に回答しなければならないため、設計・見積書を保険仕様にして提出することも多い。保険の場合は、事故報告から写真等をそろえて、一定の書式にして事故報告として作成し、見積書もそえて提出することとなる。当然、その見積書は管理組合が保険会社が提出したという形式をととのえているが、管理組合の組合員は素人の方も多いので、やはり保険会社は見積書作成者に連絡をとることになる。
さて、そうやって正当な保険査察を行い、保険金が管理組合に入金となる。そこから工事が始まるのだが、かなり以前に、このケースで、何度もしくじったことがある。それは、どのようなケースかというと、組合に保険金が入金された後、管理組合と一切の連絡が途絶えてしまい、相当な期間が経過してから、別の修繕業者さんが工事を実施したと聞いた。
まあ、それは致し方ない部分でもあるが、その際に管理組合は、私どもの調査設計した見積書を、そのまま別の業者さんに渡し、それにしたがって工事を発注したらしい。
別に保険による工事だけに限らず、相当な調査を数度行い、図面や現地調査から寸法等をひろい作成した見積書を、安易に他の業者さんにスライドするということは、じつはこの業界では、普通に行われていることではあるが、それはマナーとしていかがなものかと思う。もちろん、ひとこと言ってくれたら、「まあ、仕方ないかな。ご縁がなかったかな」と思うこともあるけれど、実際はかなり残念だ。
簡単な補修工事くらいで、概算ですぐに見積書を作成できるような工事ならよいけれど、中には、自分たちで調査・設計するのが面倒で、できあがった見積書や仕様書を、こっそり知り合いの業者に渡してしまうということは頻繁にあるようだ。
一昔前(といっても30年くらい前かな)、業者に見積書を取得すると、それだけで最低10,000円くらい費用がかかったものだが、いつのまにがその慣習もなくなり、見積書作成は無料が当たり前のようになっている。私は、現地調査が必要で仕様作成が必要な場合は、工事が成約できなくても、下請け業者にはお礼金は払っている。それは工事が成約できればペイできるようにしてあるが、成約にならなければ赤字だ。まあ営業上の必要経費とみるしかない。
最近は、信用で工事を発注してもらっているので、あまり他の業者にスライドされることはなくなりましが、初めてのお客様なんかは、今でもそのようなことがある。
お客様ファーストというのは、信頼関係の上になりたつので、発注されなければ、それまでなのだが、あまり複雑な見積書を取得したり、困難な仕様書を作成する場合などは、最初に調査費用などもお客様と話し合っておくべきだと思う。
最近は、どのマンション読本を見ても「相見積」は当然である、というようなことが書いてある。それについては異論はない。ただし、それは仕様を横流ししないという前提のルールがある。つまり、まず1社から仕様を取得して、その仕様を他社に回して、見積書の数字だけを変更させるようなやり方は、やはり気持ちがよくない。
それならば、工事の設計者とまず契約して、仕様作成料金を支払い、その後に施工業者に「相見積」を取らせるのがルールだと思う。