左官屋という職業がある。一般的には「さかんや」と読む。現場では、なぜか知らないけど、みんな「しゃかんや」さんと呼んでいる。
マンションの管理をしていると、いろんな職業の人と出会う。電気屋さん、ガス屋さん、配管屋、防水屋など。土間屋さんなんて知っていますか。土間をうつ人たちです。昔はラス屋さん、なんて人たちもいました。ラス屋というのは、モルタルなどを絡めるためのラス(金網のようなもの)を前もって設置しておく人たち。最近は、クロス屋さんたちが、自分たちでやるようになって、ラス屋さんという専門の人たちもいなくなったなあ。
マンションを建築したり、補修したりする職業の人たちは、上記に述べたような職業の人たち。都度、どの人にお願いするかが、ある意味では、管理の手腕ともいえる。
20年来付き合っている左官屋さんがいる。Aさんとしておきます。上手ですよ~。中学卒業してから実家で修行して、もう50歳半ば。もちろん独立して親方としてやっています。左官屋は最低でも修行が10年以上。そうしないと漆喰(しっくい)なんかは、塗れませんね。
左官屋さんは、マンションの建築時にいろいろ活躍するけれども、補修の時にはそんなに出番がないですが、アフター保証工事などでは、手直しなどでよくマンションに来られます。
さてこのAさんも、最近は年取って肩や腰が痛いって言っています。左官屋は基本的に腕を使うので、五十肩とかが多いです。
あるマンションの管理組合の要望で、流れの悪い側溝の中をモルタル塗りで固めました。こういう時に左官屋の出番です。たった2mほどの側溝だったのですが、真ん中にドレイン(排水溝)があり、雨水が流れ込んできた場合、すべてゆっくりと、この排水溝に雨水を流し込んでいくための勾配(こうばい)が必要です。1メートルくらいの側溝を数度の角度でモルタルをうす塗りします。左から右にかけて1メートルをゆっくり1㎝くらいの勾配をつけます。
どうしてそんなことができるのか、よくわかりません。なんの器具も使わずに、手と小手にセンサーが付いているように、1㎝の勾配をきれいに仕上げます。
マンションの廊下などに塩ビシートを貼っているところが多いと思います。ベランダなどにもよく見かけます。きれに貼っていますが、雨が降ると水たまりができます。これは勾配がうまくとれていないせいです。
そこで大規模修繕などの張り替えの時期にあわせて、この水たまりをなくそうとしますが、なんど貼ってもおなじところに水たまりができます。これはもともとの勾配が悪いからです。
工事をする前の見積書の内訳を見てみると、貼替としか書いてありません。これは勾配調整をしないという意味です。勾配をつけるためには、必ず下地調整が必要です。この下地調整は左官屋さんでないとできません。
でも下地調整って、すごく高いんです(費用が)。だから、修繕時でもあまりやりません。勾配調整というのは、ミクロン単位の傾斜をつけることができるような左官屋さんでないとできません。
マンションでは、勾配の悪い箇所が必ずといってよいほどありますよね。マンションの廊下の側溝にはよくウレタン防水がかかっています。だから、この勾配は防水屋さんがつけると思っている方もいるようですが、防水屋さんは防水がプロで、細かい勾配はつけることができません。まず、ウレタンを塗る前に下地に左官屋さんが勾配調整をしたうえで、防水するのです。
ですから左官屋さんという仕事は貴重な仕事だなあと思っています。だけど、先に紹介したAさんも、いつまでこの仕事をやるか分からないとのこと。
左官屋さんが活躍する場面も減っているようです。先の述べた漆喰なんかを塗るような仕事は、本格的な茶室やお寺なんかじゃないと仕事はなくなっています。マンションの専有部に漆喰なんか塗る方、いませんものね。
つい最近、マンションの外構にブロック塀があり、その2~3ブロックが破損したため積み替えたのですが、Aさんに依頼しました。4万円くらい。正直言うと、モルタル練って、(簡単なプライマー塗った後)ブロックに塗って積み直すだけなので、私がやれば1万くらいでできます。でもブロックごときでも、出来上がりのきれいさが微妙に違うのですよね。これが1年とか2年たつと、目地の色合いなんかが、やはり素人とは違ってくるんです。
お客様も、そのあたりを説明したら、4万円という料金は仕方ないかな、と納得してくれました。
この商売をしていると、マンションに係わるあらゆる専門業者の方たちとのつきあいがとても大事になってきます。