月刊「文芸春秋」2021年6月号を読んでいると平成13年に起こった東京都新宿の歌舞伎町ビル火災の記事が出ていた。この事件は、2001年(平成13年)9月1日未明に新宿区歌舞伎町の雑居ビル「明星56ビル」で火災が起こり、44名が犠牲になった火災事故です。
私のような不動産業界にいる人間であれば、建物の維持管理の一つとして防火設備があり、過去の火災の歴史等を知る中で、必ず記憶にとどめる事件である。
防火管理者という消防法上の資格があります。同資格取得のために講座を受講した人ならば、必ず座学として教えられると思います。たしかにビル名(明星56ビルは今はありません)までは覚えていませんが、一般的に歌舞伎町ビル火災として、このような惨事が起こらないようにするための例としてテキスト等にも出てきたと記憶しています。
防火管理者という有資格者の設置は、マンションにおいて設置が必要な場合とそうでない場合があり、それはマンションの居住者数や㎡数などによって分けられています。簡単にいうと大きなマンションは甲種防火管理者、小さいマンションは乙種防火管理者。小規模マンションは必要なしという感じです(詳細は個々人で調べてくださいねー消防署のHPなど)。
マンションでは、多くの場合、年2回の消防設備点検を実施されていると思います。管理組合の認識では、「年2回が義務」と覚えている方も多いでしょう。たしかにその通りなんですが、詳細に言うと、機器点検が6か月ごと。総合点検が年1回です。居住者から見ると、今回の点検は機器点検か総合点検かの違いは、ほとんど意識されていないと思いますが、、、。この総合点検の結果を、マンションなどの共同住宅については、3年に1回、所轄の消防長または消防署長に報告しなければなりません(店舗が入ったような複合用途は別)。こう書くと、消防署長なんて知らないよ~という話ですが、そこは皆様、大人なので、要するに消防署に提出するということです。
この点検を怠り、その不具合が原因で多くの死傷者等が出たら、誰の責任になるのか、という話題がよく出ます。その時に、上述の歌舞伎町ビル火災の例が出されます。だから、ビルやマンションの権限者(ビルの場合はオーナー、マンションの場合は理事長と判断)は、普段から適正な消防法上の管理を行わなければならないのだと、防火管理者講習や防災訓練などの消防署の講話などでも教えられます。
私は、マンション管理士という仕事の中で、この火災の責任ということを考えた時に、「この場合はこうだ。また別の場合はこうだ」といろいろ考えても、だれか一人の責任ということはありえないと思っているのですが、それでも責任者が明確でないと防火の責任もぶれてしまうため、現在の法体系が最善であるとは思います。
こんな例がありました。あるマンションで消防設備点検を行いました。ベランダに避難梯子がある部屋で、梯子を下ろしたら下階ベランダに設置した物干し器具が邪魔で梯子を降ろしきれません。そのため消防設備点検の報告書には、●●●号室の物干しが障害と指摘されます。さて、その居住者(組合員)に、その物干しを撤去してほしいと依頼します。理由は、指摘された物干し器具が避難経路の障害になるということです。その器具は、本来のマンションの仕様ではありませんでした。それはそうですよね。それが全部屋にあったら、全部屋消防法違反ですから、、、。聞いてみると、部屋を購入した時点でそうなっていた、という話で、「なぜ私たちが自費でこれを撤去しなければならないのですか」ということになりました。まず、このような指摘事項を該当宅に伝え、交渉する責任者はだれなのか。管理権限者ならば理事長、防火管理者かもしくは管理会社か。その時は、私は管理会社の社員であったので、私が言いましたが、かなり険悪な雰囲気に。居住者や私から見たら、消防法違反(避難経路の障害)になるような器具をつけるな、ということでした。結局は、私が知り合いの業者さんに無償で取り外してもらいましたが、本来ならば、やはり部屋(専有部)の組合員さんが払うべきで、そのような器具をつけた業者を相手に、その組合員さんが業者から賠償してもらうべきでしょう。でも、そんなこと、なかなか仕事がはかどりません。
器具取り外しの交渉過程では、管理組合の責任を問う声もあがりました。なぜならベランダは共用部であるので、共用部の管理体制として、内装工事をする際に共用部への影響がないかを確認すべきであり、それを怠った管理組合が悪いのであるという理屈です。つまり、消防法違反を指摘した管理組合が逆に責任を追及されるという形です。
まあ、結局は、簡単な工事で取り外しましたけれでも、いったんもめると、こうなるという話です。
もし上記の物干し器具の取り外しができていない時に火災でも起き、上階の方が避難梯子で降りれず、被害者となっていたら、それは、だれかが責任を問われます。それでも、上記のように、責任の所在が複雑で分かりにくい場合もあります。そうならないために、普段から、全員が気を付けておくべきなのでしょう。
ちなみに歌舞伎町ビル火災では、ビルのオーナー等が消防法違反で逮捕(避難経路に物を置いていたなどの消防法違反)され、2008年に執行猶予付き判決が下っています。しかし、この火災の本当の原因は、いまだに公表されていません。出火元は3階踊り場付近ということまでが公表されました。東京消防庁は2002年に「放火の疑いがある」という判定書を出しています。